あなたは来来亭というラーメン屋をご存知だろうか。関西ではよく知られたチェーン店である。
私は来来亭のラーメンが大好きだった。
自慢のラーメンは、醤油ベースのスープに背脂をトッピングしているのが特徴で、あっさりしながらも病みつきになる味に仕上がっている。
来来亭の特徴はもうひとつあった。それは、太っ腹なポイントカードの特典である。
来来亭のポイントカードは、ラーメン一杯あたり1ポイントが加算される。80ポイントためるとなんとラーメンが1ヶ月間無料になる「無料パス」がもらえるのだ。
1ヶ月を30日とすると、食べた分の37.5%が返ってくる計算である。ごいすー。
▼ポイントカードはスタンプラリー形式になっている
私は大学時代、この1ヶ月無料パスに惹かれ、来来亭に通いつめたことがある。
大学時代に住んでいた京都は、ラーメン激戦区であることでも有名だった。
来来亭にわざわざ行かなくても、京都でしか食べられないめちゃくちゃウマいラーメンがチャリで行ける場所にところ狭しとあった。
にもかかわらず、私は来来亭のラーメンを食べまくった。無料パスのために。
一度ひとりで来来亭を訪れていたとき、「僕の友達でな、来来亭のラーメンめっちゃ食う奴おるねん!そいつポイント貯めにひとりでも来来亭いくらしいねん!ほんまおもろいよな!」と彼女に話す私の友達に遭遇したこともある。
なにがおもろいねん。本人おる後ろで彼女との会話のネタにすな!
そんなこんなで運命の日はやってきた。
ついに80ポイントを貯めたのである。
ゴールドカード(40ポイント以上貯めるとゴールドカードになる)の最後のひとマスに、「来」と書かれたシールが貼られ、店内で「おめでとうございますー!」と祝福された。お客さんにも拍手された。恥ずかしかった。
「無料パスに本人写真載せるので、お撮りしますねー!」と店員に促され、ラーメンを食べ終わってすぐの汗ばんだ顔を否応なしに撮影された。なぜお色直しの時間がない?せめて髪型直させてくれ。
「それでは無料パスは、郵送でご自宅にお届けしますので!1週間くらいで届くと思います!」と言われ、なんだ今お渡しじゃないのか・・・とちょっと残念だったが、そのあとワクワクしながら無料パスの到着を待った。
毎日ポストを覗いていた。
異変に気づいた。
1週間、2週間・・・。そして1ヶ月経っても、無料パスは家に届かなかった。
「詐欺やんけ」
私は思った。全員ではないにしろ、来来亭のポイントカード目当てに通っている客もいることだろう。やっとの思いで貯まった!と思ったら無料パスを発送してこないなんて。学生でお金もなかったので、本当に腹立たしかった。
▼「はいっ!ホントです!」しばくぞ。
また80杯で他のラーメンをもっと経験できたはずだったのに、ということも怒りに拍車をかけた。あんびしゃす花とか極鶏とかキラメキとか恵那くとかもっと行けたやん。なめとんのか!
私は来来亭に直談判に行こうと考えた。しかし、ふと気付いた。
それは「自分が80ポイント貯めた証拠を所持していない」ということだった。
ゴールドカードをすべて埋めた写真は撮ってないし、どの店員が自分の写真を撮ったかなんて覚えていなかった。
「私はポイント貯めたんや!証拠はない!無料パスよこせや!」と言えば、ただの迷惑な客だし、最悪恐喝で逮捕されるのでは?と思った。文字に起こすとよくわかるが、言ってることが支離滅裂だからである。
そんなわけで、私は無料パスを諦めた。その代わり、来来亭には行かなくなった。
大学を卒業し、関東で働き始めてしばらく経つと、家の近所に来来亭ができた。
景観を壊すレベルに煌々と光る黄色の店舗。
今考えると、よくこの店構えで京都に君臨できたな・・・と恐れ入る。
(のちに確認したところ、京都では看板のみ黄色だった。印象とは恐ろしい。)
もう二度と行くものかと思っていた店だが、ロゴを見ていたら懐かしくなって、食べに行ってしまった。
壁には「おかげさまで無料パス1万人突破!!」の張り紙があった。
その1万人分の1は私である。崇め奉り給えよ。
味玉ラーメン醤油濃いめが私の定番である。
大学時代と変わらぬ味が、そこにはあった。
やっぱり私は来来亭のラーメンが大好きである。
おわり。